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ゲームを1日11時間半。気鋭の経営学者、我が子に禁止しない理由

新型コロナウイルスの脅威は、世界各地の人々に影響を及ぼし、私たちの日常を激変させた。この連載では、ビジネスやカルチャーの様々な分野で活躍する人たちが、コロナによってどのような行動変容・意識変容に直面しているのか、リアルな日常を聞き取っていく。第4回目は、早稲田大学大学院のビジネススクールの経営学教授、入山章栄さん。(インタビューは4月16日にオンラインで実施。写真は本人提供、または画面撮影によるもの) 

入山章栄

早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。 三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科准教授。2019年から現職。最新著に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)。

入山章栄さんのコロナシフト

  • 家族で一緒に運動する時間を
  • ビジネスはオンラインがデフォルトに
  • 「本当に大事にしたい仕事」に対する好奇心を解き放つ

デジタルネイティブ世代の子どもから学ぶこと

――入山先生といえば、昨年末に上梓された書籍『世界標準の経営理論』が大ヒット。早稲田大学大学院ビジネススクールで教鞭をとる傍ら、講演やテレビ・ラジオ出演に大忙しの気鋭の経営学者という印象があります。「外出自粛」の生活に変わってからは、どのようにお過ごしですか?

多くの皆さんと同じく、家で過ごす時間がとても増えました。おっしゃる通り、僕は大学の仕事以外に講演などに呼んでいただく機会が多くて、コロナ前はほぼ毎日何処かへ出かけていました。

それがコロナを機に講演の予定は全部中止や延期となり、完全なおこもり状態に。ライフスタイルは劇的に変わりましたね。

――その変化については、どう捉えていますか?

もちろん社会全体としては人命を失ったり、悲しい損害を負った面も多くあります。他方、個人の体感としては、ポジティブに捉える部分も多いと思っています。

というのは、人生でこれほど家族が一緒に過ごせた期間はこれまでなかったからです。海外援助機関で働く妻も在宅勤務に切り替え、中学1年生になる息子、小学3年生の娘も学校が休みなので、四人と飼い犬一匹がずーっと一緒にいるんです。うちは比較的仲が良い家族なのですが、今回のステイホーム期間によってさらに団結力が強まった気がします。

――家族でどんな過ごし方をしているのでしょう?

基本的に僕と妻はリモートで仕事をしていますが、朝昼晩の食事は家でみんな一緒。新たに加わったルーティンとしては、日中に家の前で家族で軽い運動を始めました。僕は息子とキャッチボールを、妻は娘とバトミントンやサッカーの練習を。加えて夕食後には皆でトランプで遊ぶことも多くなりました。コロナ前もすることはありましたけれど、毎日のようにできるなんて3カ月前には考えられなかったです。

子どもたちは学校から宿題が出ているはずなんですが、息子はずーっと部屋にこもってゲームをやっています(笑)。息子はもともとゲーム好きで、中学入学のお祝いに専用のパソコンを買ってあげていたんですよ。そのタイミングで外出自粛になったものだから、彼はゲームし放題です。

一応、ペアレンツ・コントロールとして、週に1回、記録が親に届くように設定しているのですが、先週なんて1日平均11時間半も『フォートナイト』をやっていましたからね。「お前!こんなことになってるぞ!」と突き付けたら、本人はワハハと笑っていましたけれど。ワイドショーで「休校中に子どもがゲームを6時間もやって、親の私がノイローゼになりそうです」と嘆くお母さんの声を取り上げているのを観て、「うちなんて11時間半だぞ!」と思っちゃいました。

――怒ったり、禁じたりはしないんですか?

禁じても怒ってもいないですね。本人が好きで没頭しているならいいんじゃないかという考えなので。もう一つ、ゲームも悪くないと思う理由があって、彼はゲームを通じて「友達とつながっている」んですよね。決まった時間にオンラインゲーム上で友達と待ち合わせをして遊んでいる。彼は4月から入学するはずだった中学に通えていないので、今は小学校時代の友達としかつながれないんですよ。仲良しグループと決まった時間にLINE電話で話したりもしていて、8歳の娘のほうもキッズ携帯で従姉妹とおしゃべりしながら同じテレビ番組を見ている。つまり、自分が持っているデジタルツールを使って、誰かとつながろうとしているんですよね。さすがデジタルネイティブ世代だなと感心して見ています。

――在宅ワークはうまくいっていますか?

 僕は大学教員という特性上、そもそも家で仕事をすることには慣れています。ただ今回は、妻も在宅勤務を始めたというのが大きく違う点です。

うちは小さな書斎を2人で共有していて、それぞれのデスクを壁に向けている。つまり、背中合わせで仕事をするように部屋をレイアウトしています。でもコロナ前は妻が家で仕事をすることはほぼなかったので、僕が占有していたんです。

そこにコロナ後は妻が乗り込んできたので、家庭内領土戦争の勃発です(笑)。結果、もちろん負けたのは僕です。実際に背中合わせで仕事をしてみると、「狭い!」ということに気づき、僕は書斎から逃げて、リビングダイニングのテーブルで、ノートPCで仕事をすることも多くなりました。つい昨日も、隣で娘がNetflixで観ているアニメ番組『おしりたんてい』が背後に流れる中、某社の取締役会に参加するというタスクをやり切りました(笑)。意外と平気なんですけれどね。

――これまでにない環境でも集中できる能力が試されそうですね。

そう思います。住産業への影響という視点では、コロナ後に「リノベーション」の需要は絶対に高まるでしょう。共働きでの在宅ワークを前提とすると、6畳の個室を一つ作って二人で共有するより、3畳の小さなワークスペースを2つ作るほうが合理的でしょうから。

また、コロナが落ち着いても商習慣も一気に変わっていくでしょう。「リモートでも仕事は十分にできるね」と多くの人が気づいてしまったことで、ビジネスにおける営業活動や面会のスタイルはオンラインがデフォルトになっていくはず。コロナ前は「対面で伺うことが礼儀」でしたが、感染予防が優先される今は「訪問するほうが失礼」へと180度転換するかもしれない。

そして商習慣が変われば、働き方の前提となるライフスタイルも大きく変わります。「都市で働き、家で休む」から、「家で働き、たまに都市に出かける」というライフスタイルを選ぶ人も出てくるでしょう。都心のオフィス不動産で稼いできた会社は、新しい価値を提供しないとテナントを引きつけられなくなりますよね。

――入山先生の本職である学術分野でも働き方に変化は起きていますか?

僕が所属する早稲田大学は、現総長の田中愛治さんが意思決定が速い方なこともあり、全国の大学に先駆けてオンライン化を打ち出しました。現場レベルでも、特に僕が所属するビジネススクールの教授陣の動きは早かったです。緊急事態宣言が出るずっと前から、「ゼミのオンライン化を進めるための準備をしましょうよ」と集まって、Zoomを覚える勉強会を自主的に開いて、僕も参加しました。ビジネススクールの教授は実務の第一線で活躍されてきた方も多く、新しもの好きで変化対応に前向きなタイプが多いのでしょうね。

僕はコロナ前はオンライン会議でWherebyというツールを使っていたのですが、「皆が使っているから使う」というネットワーク外部性が働いた結果、一気にZoom派になりました。今後Zoomはプラットフォーム化するので、アバターなどいろいろなビジネスがこの上に載ってくるはずです。

個人的には「Zoom飲み会」は気に入っています。私は早稲田大学ビジネススクールのゼミを毎週金曜にやっています。コロナ前は、ゼミの後に社会人学生と神楽坂か荒木町あたりまで飲みに行くのがお決まりだったのですが、今はそれができないのでZoom飲み会に切り替え。するとURL一つで気軽に案内ができるので、大学院を修了してからはなかなか会えなかったOBが気軽に顔を出してくれるようになりました。これはZoom飲み会のいい点ですね。

ただし、Zoomに関して一つ課題があるとしたら、我が家の背景問題です。オンラインで教授会をすると、同僚の皆さんの背景は「いかにも大学教授!」という立派な本棚なのに、僕は背中合わせの妻のデスク…。仕方ないからバーチャル背景でごまかしています(笑)。

時間の使い方を取り戻すことができた

 ――おこもり生活では健康管理も重要です。何か取り入れている習慣は?

コロナ前からジョギングを2〜3日に一度はしていたのですが、おこもり生活中はやはり運動不足が気になるので、ジョギングの頻度や走る距離を増やしました。コロナ前は2日に1回、8kmくらいのペースでしたが、今は毎日10〜14km走るようにしています。

加えて、これは世の多くの男性が経験していると思いますが、僕も在宅時間が増えたことで料理をする頻度が格段に増えました。もともと週に1回くらい、焼きそばや手軽なパスタなどを作るのは習慣だったのですが、今は週3〜4回作っているかも。印度カリー子さんのレシピ本を読んで、スパイスから作るカレーにハマったり。家族からも好評だったので気を良くして、同時に2種類のカレーを作るようにもなりました。

SNSでも男性の料理自慢の投稿が見られますよね。こう考えると、男性の家事参加も含め、「これまでずっと社会が求めていながら、ずっと実現できていなかったこと」が一気に浸透しているんだなと感じますね。

――あらためてご自身にとって、ステイホーム生活がもたらす価値とは何だと思いますか?

僕の場合は、好奇心のおもむくままに、本当にやりたかったことに没頭できる。そんな時間の使い方を取り戻せたことだと思います。

例えば、ずっと“積ん読”のままにしていた本をめくったり、気になるワールドニュースの根拠となる論文を当たってみて「面白いから、ゼミの課題にしてみようかな」と思いついたり、社外取締役をしている企業の人事育成についてじっくり意見交換したり。僕は人前で喋るのは結構好きなんですけれど、講演がなくなったからといって困ることはなかったです。コロナ前は“頼まれ仕事”に忙殺されて失いかけていた、「本当に自分が大事にしたい仕事」に対する好奇心を解き放つことができていると、今は感じています。

リアルとバーチャルのバランス

――コロナが収束した世界でやってみたいことはありますか?

おそらく多くの方が同じだと思いますが、思い切り羽を伸ばせる、自然豊かな場所に行きたいですね。海や川に遊びに行きたいです。ワーケーション(リゾート地で働く「ワーク+バケーション」)にも興味があります。

最後に、経営学的に少しお話しすると、これからの社会が直面するテーマは、“リアルとバーチャルのバランス”になると思います。ビジネスの発展にとって重要と言われてきた「知の探索」や「弱いつながり」は、基本的には人と人のリアルなコミュニケーションを前提にしてきたものでしたが、コロナにとってそれは一時的にほぼゼロへと振り切られた。

しかしながら、「まったくの初対面の人同士がバーチャルだけで関係性を築けるのか? イノベーションを生み出せるのか?」と問うとすれば、それはまだ未知数です。つまり、一度手放したコミュニケーションをどのレベルまで取り戻すのか。社会全体での壮大な試行錯誤が、これから始まっていくでしょう。